伝説の大鷲「キト」の由来

資料提供 堀田文康(高鷲村在住)

 

伝説の大鷲「キト」は、今をさかのぼること200年前、高鷲村を大変な大雪が襲ったとき、初めて姿を現したと記されている。その由来は、「森と精霊の名においてここに集いし」という言葉で始まる「樹里斗絵巻(きりとえまき)」に、「山の守り神である大鷲「キラ」と共に、この地に降りてきたもう1羽の大鷲を「キト」と名づける。」とあることから。

当時はまだキトは出現しておらず、伝説の中でだけ語られる幻の鳥であった。

 

 

参考資料

樹里斗絵巻(きりとえまき)

高鷲の山に古来から住むと言われる精霊、あるいは魑魅魍魎を描いた長大な絵巻。「柚妃えな(ゆひえな)」という巫女が、実際に旅をして書き記したものを樹里斗寺(きりとじ)に封印した。後にその子孫が封印を解くが、災厄に悩まされ、以来行方がわからなくなったという。

 

キラとキト

伝説の大鷲。2頭同時に降りてきたとされるが、実際には同時に見たという者はいない。人世界に姿を現すのはまれである。村が大きな災難に見舞われると、どこからともなく現れ、苦しむ人々を救ったという。キラ、キトという名前は古代の巫女「柚妃えな」により名付けられた。言い伝えによると、初めての大鷲との接触の際、自ら名乗った、とされる。

 

千眼花(せんげんばな)

高鷲の山奥、魔境の地と言われる「陀羅(だら)」の洞窟に咲くとされる花。万病に効果があるが、その洞窟の入り口では悪霊が門番をしており、人間は立ち入ることができない。たとえ入れたとしても、「悪霊の10の怨文」に惑わされ、生きて帰ってくることは不可能。

 

うらきつね

古代の巫女「柚妃えな」により書き記された「樹里斗絵巻」の第3番目の悪霊。顔の半分が人間、もう半分が動物(狐に似ているとも言われた)で、争い事を好み、人々の心の隙間に入り込んでいたずらをする。特に「疑う」という心が好きで、どんな小さな疑いもどんどんねじ曲げて大きくしていく力を持つ。悪霊「どうどうめぐり」に似た性質を持つ。


サヌザ岩

キトの召喚の方法は「柚妃えな」よりいくつか伝えられた。そのひとつが「サヌザ」という方法である。それは、高鷲の山中にある秘境、「陀羅」の「サヌザ岩」の上で、子の刻、寅の方角に向かって立ち、左手にウヌラ(羊の一種)の耳、右手に紅葵の芽を持ち、「キト、マドゥキリ、アヌーア、ゼハ(キト、我らの守り神よ)」と唱えよ、というものである。三吉少年はウヌラの耳を持たず、場所も間違え、この召喚経文さえも唱えなかったが、なぜかキトは少年の夢に現れた。これは、この時すでにキト自ら「うらきつね」を追って人間界に魂を飛ばしていたからかもしれない。


雪わらし

1000年前キトが封印したサヌザ岩の中にいる悪霊のひとつ。丹の瀬(にのせ)北部では「雪わらこ」とも呼ばれる。全身をわらのような毛で覆われているためこの名がつけられたらしい。村に大雪をもたらす悪霊で、飛び回るだけで雪がとどまることなく降り続く。たった1日で村は雪に閉ざされ、人々は凍えてしまうという。キトが三吉少年に授けた無心剣によって退治され、またサヌザに封印された。


無心剣

キトが三吉少年に授けた剣。一見普通の刀に見えるが実は千眼花の化身で、キトにより呪術がかけられている。ただし、1度使えばもとの花にもどってしまう幻のような剣である。雪わらしに対しては、柚妃えなの教え通り剣を十字に3度切りつける「無心十字」という封印技が使われた。三吉少年がいつどのようにこの技を習得したのかはまったく不明である。


百面(ひゃくめん)

郡上市白鳥町に伝わる太鼓神。常に集団で現われる。見るからに奇怪な神々で、太鼓を叩き田畑の悪霊を追い払う。キトによって召喚され、悪霊「田つくらい」を退治した。


田つくらい

「田つくろい」とも言う。キトによりサヌザ岩に封印された悪霊のひとつで、農作物の成長を妨げ人々を困らせる。米不足は主にこの田つくらいが原因で、一度田畑に住み着くと太鼓神「百面」の洗礼がない限り不作をもたらし続ける。「田を食らう」という意味からこの名前が付けられた。


壱の神(いちのかみ)

百面のリーダー。厳つい面持ちの神ではあるが、百姓衆の心強い味方である。田つくらいに対し、太鼓の洗礼を行い田畑を救った。

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